
情報確認日:2026年8月21日
この記事は、米国国立医学図書館のPubMedに掲載された検索練習・分散学習・睡眠・そろばん式暗算に関する論文と、厚生労働省の睡眠情報を確認して作成しています。研究結果には対象・期間・課題による限界があるため、すべての人に同じ効果を保証するものではありません。
同じ説明を聞いても、細かい内容まで覚えている人がいます。一方で、何度読んでも忘れてしまい、「自分は記憶力が悪い」と感じる人もいるでしょう。
記憶には、情報を一時的に保つ働き、長く保存する働き、必要なときに取り出す働きがあります。「記憶力がいい人」は、何でも一度で覚えているとは限りません。覚える対象を選び、思い出す機会をつくり、既に知っていることと結びつけています。
この記事では、記憶の基本的な仕組みと、大人にも子どもにも取り入れやすい5つの習慣を紹介します。覚え方の傾向を別の角度から見たい方は「右脳派・左脳派の診断」もあわせてご覧ください。
目次
記憶力がいい人に共通する3つの特徴

覚えることを絞っている
すべてを同じ強さで覚えようとすると、何が重要なのか分かりにくくなります。記憶力がいい人は、先に「あとで説明できるようにしたいこと」「必ず使うこと」を選びます。
会議なら結論・理由・次の行動、学習なら重要語句を3つというように、まず対象を絞ります。細部は必要になったときに資料へ戻れるよう、保存場所を決めておけば十分です。
読み返すだけでなく、思い出している
覚えた内容を見ずに取り出す練習は「検索練習」や「想起練習」と呼ばれます。文章を学んだ学生を対象にした研究では、繰り返し読むだけの条件より、いったん思い出すテストを挟んだ条件のほうが、遅れて行ったテストで保持が良かったと報告されています(PubMed掲載論文)。
大がかりなテストは必要ありません。本やノートを閉じ、「要点は何だったか」を自分の言葉で話すだけでも、思い出す練習になります。間違えたときは答えを確認し、もう一度取り出します。
既に知っていることと結びつけている
新しい情報を単独で覚えるのではなく、経験、場所、似た言葉、理由などと結びつけると、思い出す手がかりを増やせます。
たとえば歴史の年号なら出来事の前後関係を説明する、漢字なら部首の意味を考える、仕事の用語なら実際の場面を一つ思い浮かべます。「なぜそうなるのか」「何と似ているか」と問い直すことが、知識同士をつなぐ助けになります。
記憶の仕組みを簡単に整理する

短期記憶とワーキングメモリ
短い時間だけ情報を保つ働きは、一般に短期記憶と呼ばれます。ワーキングメモリは、情報を一時的に保ちながら、並べ替える、計算する、文章の意味を追うといった処理に使う仕組みです。代表的なモデルでは容量に限りがあるとされています(PubMed掲載レビュー)。
説明を聞きながら別の通知を見ると内容が抜けやすいのは、保持と処理を同時に行う範囲が限られているためです。覚える時間は、別の課題や通知を減らすだけでも取り組みやすくなります。
エピソード記憶・意味記憶・手続き記憶
長期記憶を説明するときは、出来事に関するエピソード記憶、知識に関する意味記憶、技能や手順に関する手続き記憶などの分類が使われます。
● エピソード記憶:旅行や学校行事など、自分が経験した出来事
● 意味記憶:言葉の意味、漢字、歴史上の事実などの知識
● 手続き記憶:自転車の乗り方や楽器の演奏など、練習で身につける技能
実際の学習では、これらが完全に独立して働くわけではありません。知識を体験や手順と結びつけると、思い出すきっかけを増やせます。
忘れることを前提に計画する
一度覚えた内容を忘れること自体は珍しいことではありません。「忘れない方法」を探すより、忘れかけたころにもう一度取り出せる予定をつくるほうが実行しやすくなります。
記憶力を鍛える5つの習慣
1. 覚えるより、思い出す時間を増やす
読む、聞く、線を引く時間のあとに、必ず「見ずに答える時間」を入れます。子どもなら「今日習ったことを3つ教えて」、大人なら「この資料の結論を1分で説明する」といった形です。
2. 間隔を空けて繰り返す
同じ内容を一度にまとめて繰り返す方法と、時間を空けて繰り返す方法を比較した研究では、学習を分散させる効果が多くの実験で確認されています。ただし、最適な間隔は覚えておきたい期間や内容によって変わります(PubMed掲載のメタ分析)。
まずは学んだ当日、翌日、数日後、1週間後を目安に、短い確認を入れてみましょう。忘れていた部分だけを戻れば、毎回すべてを読み直す必要はありません。
3. 自分の言葉で説明し、手を動かす
言葉をそのまま写すのではなく、要点を短く言い換えます。図にする、例を一つ考える、問題を解くなど、覚えた情報を使う作業に変えましょう。
4. 睡眠を削らない
睡眠と記憶の関係については多くの研究があり、睡眠は学習後の記憶の固定に関わると考えられています。一方、記憶の種類や年齢などで結果に違いがあり、仕組みには未解明の点もあります(睡眠と記憶に関するレビュー)。
覚える時間を増やすために睡眠を極端に削るのではなく、生活リズムを整えることを優先してください。睡眠習慣の見直しには、厚生労働省の「睡眠に関する健康づくり支援ツール」も参考になります。
5. 集中できる状態をつくる
15分でもよいので、一つの課題だけに取り組む時間をつくります。スマートフォンの通知を切る、必要なものだけ机に出す、終わる時刻を決めるなど、注意がそれにくい環境を先に整えます。
学習中の食事や間食も含め、集中しやすい生活を見直したい方は「集中力を高める食べ物と食べ方」をご覧ください。

そろばんの暗算が記憶に関わる理由

そろばん式暗算では、頭の中に珠の配置を思い浮かべ、そのイメージを動かしながら計算します。これは、視覚・空間的な情報を一時的に保ち、処理するワーキングメモリを使う課題です。
小学生144人を対象にした研究では、5年間のそろばん式暗算トレーニング群が、対照群より計算課題と視空間ワーキングメモリ課題で高い成績を示しました。ただし、一般知能の課題では差がなく、研究者も転移効果は限定的だと述べています(PubMed掲載のランダム化比較試験)。
この結果から「そろばんをすれば誰でも記憶全般が向上する」とは言えません。一方で、珠のイメージを保ちながら正確に計算する練習は、視空間ワーキングメモリを使う具体的な活動の一つといえます。
いしど式では、できる内容から段階的に練習し、正確さを確認しながら進みます。短い時間でも繰り返し取り組み、前に学んだ内容を思い出して使う流れは、この記事で紹介した学習習慣とも重なります。
まとめ
● 記憶力がいい人は、覚える対象を絞り、思い出す回数を増やしている
● 短期記憶やワーキングメモリには限りがあるため、注意を向ける対象を減らす
● 読み返すだけでなく、見ずに説明する時間をつくる
● 一度に詰め込まず、間隔を空けて復習する
● 睡眠を削らず、集中しやすい環境を整える
● そろばん式暗算は、視空間ワーキングメモリを使う活動の一つ
まずは今日覚えたことを、何も見ずに3つ思い出してみてください。自分の得意な情報の捉え方も知りたい方は「右脳派・左脳派の診断」も参考にしてください。
















