
静かな会場に開始の合図が響くと、選手たちの指が一斉に動き始めます。聞こえてくるのは、そろばんの珠をはじく乾いた音。第11回全国そろばんコンクール決勝大会では、全国の舞台を目指して練習を重ねてきた選手たちが、個人総合競技をはじめ、読上算、フラッシュ暗算、読上暗算、英語読上算に挑みました。緊張と集中、手応えと悔しさが交差した一日を振り返ります。
目次
いよいよ本番!会場いっぱいに広がる緊張感

競技を前に、会場には張りつめた空気が広がります
会場となった国際会議場2階では、チャンピオンクラス、1部・2部、3部に分かれて競技が行われました。1部・2部はコンベンションホール、3部は国際会議室、チャンピオンクラスは201号室。選手たちは事前に指定された席へ着き、開会を待ちます。広い会場に整然と並ぶ机とそろばんは、これから始まる競技の緊張感をいっそう高めます。
午前10時30分、開会式が始まり、検定表彰、選手宣誓、優勝杯返還が行われました。全国大会という特別な場でも、選手が向き合うのは、日々の教室で何度も繰り返してきた基本です。姿勢を整え、道具を確かめ、合図を聞く。いつも通りに始めることが、本番で力を発揮するための第一歩になります。
「よーい、はじめ!」一斉に響き出すそろばんの音

答えを書いた用紙を掲げる選手。会場の熱気が伝わるひとコマ
午前11時、個人総合競技がスタートしました。「よーい、はじめ」の合図とともに、会場の空気が変わります。選手の視線は問題とそろばんに集中し、指先が迷いなく珠を動かしていきます。大勢が同時に競技しているにもかかわらず、会場には張りつめた静けさがあります。その中で重なる珠の音は、選手一人ひとりが積み重ねてきた練習の量を感じさせます。
個人総合競技では、限られた時間内に多くの問題へ取り組みます。速さを追えばミスの危険が増え、慎重になりすぎれば問題数を伸ばせません。自分に合った速度を保ちながら、正答を積み上げていく力が必要です。一問ごとの小さな判断が、最終的な成績につながります。
耳を澄ませて、最後の数字まであきらめない
続いて行われた読上算競技では、読み手が次々と数字を読み上げます。選手たちは声に合わせて珠をはじき、途中の計算を正確につないでいきます。一度聞き逃した数字を戻って確認することはできません。耳から入る情報へ集中しながら、手を止めずに計算を続ける必要があります。
読み上げが長くなるほど、会場の緊張感は高まります。最後の数字が読み終えられ、答えを出すまでのわずかな時間。選手たちは頭の中と手元に残った計算を確かめます。結果が告げられた瞬間の表情には、正解した喜びだけでなく、最後まで集中を切らさずやり切った安堵も表れます。
画面をじっと見つめる、フラッシュ暗算の真剣勝負

次々と映し出される数字を見つめる選手たち。わずかな表示時間に集中力を研ぎ澄ませます
正午を過ぎると、フラッシュ暗算競技が行われました。画面に瞬間的に表示される数字を次々と記憶し、頭の中で計算して答えを導きます。表示が速くなるほど、数字を一つずつ言葉として追う余裕はありません。選手たちは頭の中にそろばんの珠を思い浮かべ、動きをイメージしながら計算します。
観客から見ると、数字はあっという間に消えていきます。それでも選手の視線は画面から離れません。わずかな時間に意識を集中させる姿からは、反復練習によって身についた暗算力の高さが伝わります。問題が進むにつれて難度が上がり、正解者が絞られていく展開も、この競技ならではの見どころです。
英語で聞いて、頭の中で計算!多彩な競技に挑戦
昼食休憩を挟み、午後1時45分からは読上暗算競技。読み上げられる数字を、そろばんを使わず頭の中で計算します。読上算で培った聞く力と、暗算で珠をイメージする力の両方が求められる競技です。読み上げの速度や桁数が上がっても、選手たちは姿勢を崩さず、声へ意識を向け続けます。
午後2時30分からは英語読上算競技が行われました。英語で読み上げられる数字を聞き取り、同時に計算を進める種目です。日本語とは数字の聞こえ方や区切りが異なるため、計算力に加えて英語の音へ慣れる練習も必要になります。そろばんという伝統的な学びが、英語を取り入れた競技へ広がっていることを実感させる時間となりました。
がんばった時間が形に。拍手に包まれた表彰式

トロフィーを手に並ぶ入賞者たち。努力が形になった瞬間です
全競技を終えたあとは、アトラクションを経て、個人総合表彰、支部表彰、団体表彰が行われました。個人総合1位から50位までの選手をはじめ、支部・団体の表彰対象者がステージへ上がります。名前を呼ばれ、賞状を受け取る選手。その姿を見守る家族や指導者。会場は競技中の静けさから一転し、努力をたたえる拍手に包まれます。
表彰される成績はもちろん大きな成果です。しかし、この日会場に立ったすべての選手が、全国大会へ向けて自分なりの挑戦を重ねてきました。本番で力を出せた選手も、悔しさが残った選手もいます。どちらの経験も、次に何を練習するかを教えてくれます。大会の価値は順位を決めることだけではなく、選手が自分の現在地を知り、新しい目標を見つけることにもあります。
競技を終えた子どもたちに、ほっとした笑顔

賞状を受け取る選手。会場から温かな拍手が送られました
選手が競技へ集中できる一日の背景には、進行を担う競技委員、数字を読み上げる担当者、採点や表彰の準備を進めるスタッフ、日々の練習を支えてきた指導者の存在があります。開始時刻や注意事項を明確に伝え、部門ごとの会場と座席を整え、競技が公平に進むように見守る。大会は、多くの人の細やかな準備によって成り立っています。
観客席の保護者も、競技中は声をかけることなく、選手の挑戦を静かに見守ります。正解が発表されたときの空気、難しい問題へ進む選手に向けられるまなざし、競技を終えた子どもを迎える表情。選手、家族、指導者、運営スタッフが同じ時間を共有することで、会場には競い合うだけではない一体感が生まれます。互いの健闘を認める拍手は、そろばんを学ぶ仲間の広がりを感じさせました。
うれしさも悔しさも、次の挑戦につながっていく
午後4時30分、長い一日が閉会を迎えました。朝、緊張した表情で会場へ入った選手たちは、競技を終え、それぞれの経験を持って帰路につきます。そろばんをケースへしまう手には、やり切った安堵がにじみます。家族と結果を振り返る時間、指導者から言葉を受け取る時間、仲間と健闘をたたえ合う時間。その一つひとつが、大会後の学びになります。
全国大会は、一日で完結する特別なイベントではありません。大会前に積み重ねた練習と、大会後に始まる新しい練習をつなぐ節目です。今日できたことを自信にし、届かなかったところを次の課題にする。選手たちは再びそろばんに向かい、少しずつ力を伸ばしていきます。
全国の舞台で感じた緊張は、次の大会では経験になります。大きな会場で周囲の速さに驚いたことも、最後の一問まで手を動かしたことも、すべてが自分だけの基準になります。目標は、今回より一問多く解くことかもしれません。苦手な種目で正解することかもしれません。目指す場所は一人ひとり異なっても、今日の経験が次の練習を支えることは共通しています。会場に響いた無数の珠の音は、挑戦を続ける選手たちの未来へつながっています。
















