教育・子育て

2023/06/30

尽きない子育ての悩み。子どもとの関わり方の習慣を見直して、子どもを「ダメにする親」から「伸ばす親」に

 

「なんでうちの子はできないんだろう」「こんなに手がかかるのうちの子だけ?」と思ってしまうのは、子育てをする親の共通の悩みです。

 

そんなときには、子どもに関わる「習慣」をほんの少しだけ見直してみませんか。子育ての習慣とは、褒めたり励ましたりする声がけやしつけといった、日々のルーティーンのことを指します。

 

「子どもを伸ばすのに大切なのは、IQや能力を育てることではなく、非認知能力(社会的情緒スキル)物事に取り組む姿勢や考え方を育てることです。それが学校の成績や将来の成長力につながります。親の子育ての習慣が、子どもに非常に大きな影響を与えます」と話すのは、教育家の池江俊博さんです。

 

今回は池江さんに、子どもを「伸ばす親」になるコツを伺いました。

池江俊博さんとは?

教育家。元空自戦闘機操縦士。20年以上にわたり、0歳からの右脳教育、幼児児童・障害児の教育に携わり、母親指導を行っています。幼児から大人にNLPを応用した能力開発を行っています。

「子どもの元気は大人の元気が必要」と、NPO法人読書普及協会を設立、当初常務理事を務めていらっしゃいました。また陝西省婦人部网校家庭教育専家顧問に就任。中国でも教育の啓蒙や指導の講演を行っています。競泳・池江璃花子選手の父。

 

習い事を始める前に、子どもの意志を聞く親は、子どもをダメにする

 

沼田:本日は池江先生にお越しいただきました。そろばんの競技大会やスポーツ大会に挑戦するお子さんや、受験や習い事を頑張るお子さんも多いと思います。親はどのようにサポートをすべきだとお考えでしょうか?

池江:まず心得ておくべきなのは、物事に挑戦する主体はあくまでお子さんだということです。親は人生経験や社会経験があってなんとなく物事の手順がわかるから、口出しをしたくなるかもしれません。しかし、子どもが頑張っている競技のエキスパートではないでしょう。余計なアドバイスをすると、子どもの心が離れてしまいます。

「今、うまくいっていないんだ」と子どもが言うならば、「そうなんだ、どうしてうまくいっていないんだろう?」と話を整理し、最後に「あなたなら絶対に大丈夫、できると思うよ」と、言葉をかけてあげてください。尋問にならないように、寄り添いながら話を聞き出すのがポイントです。

沼田:子どもが話をしながら、自分の気持ちを整理できるようにすることが大切なのですね。親子の会話はとても大事だと理解をしている親は多いでしょう。しかし、子どもはゲームをしている一方で親はスマホをいじっているという家庭も多いように思います。

池江:友人のプロ水泳コーチは、子どもや若い選手に対して、最初に「本を読みなさい」と指導しています。心が豊かになる本を読ませれば、モチベーションなどその後の伸びが違うそうです。

伸びる子どもは、語彙力が非常に豊富だという特徴があります。そういうお子さんは、スポーツに限らず、いろいろな得が早いです。心のエネルギーを高めたり概念を自分の中で組み立てるのが上手なのではないでしょうか。

沼田:いしど式そろばん教室のInstagramにも、おすすめの絵本を掲載しています。自分の気持ちを表現するボキャブラリーは、周囲の人と意思疎通をするにも、とても大事ですよね。すべての土台だと思います。

 

世界中の子どもたちが持つ権利「子どもの権利条約」

 

子どもの権利条約とは、子どもの基本的な人権を国際的に保障するために定められた条約です。日本は1994年に批准しています。

 

条約では、子ども(18歳未満の人)が、大人と同様に一人の人間として持つさまざまな権利を認めています。同時に、成長の過程にあって保護や配慮が必要な子どもの事情を汲み、子どもならではの権利も定めています。

 

子どもの権利条約には、4つの原則があります。

 

(1)差別の禁止(差別のないこと)

子ども自身や親の人種、国籍、性別、意見、障がい、経済状況などの理由で差別されず、条約の定めるすべての権利が保障されます。

(2)生命、生存及び発達に対する権利(命を守られ成長できること)

すべての子どもの命が守られ、持って生まれた能力を十分に伸ばせるよう、医療・教育・生活への支援などを受けられることが保障されます。

(3)子どもの最善の利益(子どもにとって最もよいこと)

子どもに関することが決められ行われる際は、「その子どもによって最もよいことは何か」を第一に考えます。

(4)子どもの意見の尊重(意見を表明し参加できること)

子どもは自分に関係ある事柄について自由に意見を表すことができ、大人はその意見を子どもの発達に応じて十分に考慮します。

 

子どもの権利条約は前文と54条から成り、1~40条に、生きる権利や成長する権利、暴力から守られる権利、教育を受ける権利、遊ぶ権利、参加する権利などが定められています。

 

子どもの権利は、「いい子にしているから」与えられるものではなく、生まれながらにして持っているものです。子どもには、自分の意思で物事を決めて行動し、意見を表明する権利があります。それらを行うなかで、なんらかの不調が心身に起こるならば、大人は子どもの話に耳を傾けて守ることが求められます。

 

緊張しない人はいない!子どもに教えてあげたい、乗り越えるためのメンタルトレーニング

極限まで集中している状態を「ゾーン」と呼びます。ゾーンとは、緊張とリラックスのバランスが適切に取れた状態で、高いパフォーマンスを発揮できます。一方でこのバランスが崩れ、緊張感だけが高まってしまうと、集中力が低下しパフォーマンスも下がってしまいます。それでは、どのように緊張をほぐせばいいのでしょうか。

 

試験や試合で緊張しないためには?

 

沼田:子どもが試合や試験などの本番に臨むとき、大人はどのように声がけをすればいいですか?

池江:私がアスリートとメンタルトレーニングを行う場合は、「うまくいっているとき、心の中ではどういうことが起きているのか」を言語化してもらうようにします。そしてその言語化された状況が、別の大会に参加するときも出てくるようにします。

負け試合や、まったくうまくいかない試合のときは、言語化された状況とは別のことが起きています。そのギャップにまずは気づくことが大切。もし負けそうな状況に陥ったら、「うまくいっている状況と入れ替わったら何が起きるか」を想像します。

沼田:緊張すると、持っている力の7割ぐらいしか出せないと言いますよね。

池江:「緊張してはいけない」と思うと緊張します。リラックスしているときの自分をイメージしてください。リラックスしているときは、体の状態は意識しないもの。

「ドキドキしていると感じられているということは、自分はリラックスできている状態が始まっているな」と考え方を変えると、たとえ緊張したとしてもすぐに自分を取り戻すことができます。自分のペースを取り戻し、「ゾーン」と言われる極度に集中している状態を達成すれば、自分のベストな力が引き出せます。

沼田:イメージトレーニングは本当に大切ですね。戦闘機のパイロットというのは、瞬間的な判断力というのを求められる場面が多いように思います。

池江:武道の選手と同じで、頭で考えるのではなく体が反応しているという感覚です。そのため、普段からイメージトレーニングは大切にしていて、「相手がこう来たらこう動こう」と自然に判断し反応できるようにしています。

パイロットの学生時代は宙返りの練習などをするのですが、うまくいくイメージとうまくいかないイメージ、両方をイメージするようにしていました。うまくいかないイメージをすると、よくない兆候があるときに、それに気づけるようになるから悪い結果に陥りにくくなりますね。

 

試合に負けた=挫折ではない 

 

沼田:そろばんもそうですが、一つのことを続けていると挫折をすることもあると思います。子どもが落ち込んでしまったとき、親はどう接すればいいのでしょうか?

池江:まず、寄り添うことは前提で、うまくいかなかったときに「なぜうまくいかなかった」のかを考えることが大切です。もちろん、うまくいっているときにも「なぜうまくいったのか」を考えます。普段からこの思考トレーニングを重ねておくと、「今日はたまたま勝てたけれど、内容はあまり良くなかった。今度はこうしよう」と次につながります。

大人も「挫折させてしまった」などと深刻に捉えずに、反省材料を得たと思うようにしてほしい。子どもの視点を勝ち負けにフォーカスさせるのではなく、親も含めて、みんなで競技なり習い事なりを楽しみましょうという発想が大事です。そういう態度が、「やっぱりこの競技が好きだ」という子どもの気持ちにつながっていきます。

 

子どもが熱中していることを、見守ろう

子どもの欠点がどうしても目についてしまうという親は多いでしょう。子どもの前で「うちの子はできない子だから」と言っていませんか? 池江俊博さんの著書「子どもを「伸ばす親」と「ダメにする親」の習慣」では、他人への謙遜のつもりでも、子どもの短所を口にしてはいけないと書かれています。そうした言葉は「負の暗示」として、子どもの無意識に刷り込まれていくからです。

 

沼田:「うちの子、集中力がないんですけれど」という親御さんはとても多いです。

池江:一つ覚えておいてほしいのは、集中できない子どもはいないということ。ただし、「親が思っている集中力」と「子どもが思っている集中力」は全く異なります。子どもにとっての集中は、「一生懸命、なんとなく、黙々とやっている」状態。

砂場で黙々と泥団子を作っているときの子どもの頭の中は、実はフル回転しています。でも、小学生になるぐらいまでは、集中という言葉の意味すらわかっていないのです。

もしお子さんが黙々と何かをやっていたら、大人は「集中しているね」とボソッと小さく呟いて、その場を離れてください。「何やっているの?」などと話しかけると、子どもの集中力が途切れてしまいます。この呟きが、子どもにとって【刷り込み】になります。

沼田:ポジティブなことを刷り込むのが大事ですね。

池江:まさにそうで、「あなたは集中できないから」などと言うと、自信喪失してしまいます。「この状態を集中していると言うんだ、望ましい状態なんだな」と、子どもが思えるようにしましょう。子どもがマイナスの状態のときやマイナスのことを注意する親は多いですが、プラスのときこそいい言葉を刷り込んでほしいと思います。

 

子どもを比較することをやめよう

 

自己肯定感とは、「今の自分はありのままの自分でいいのだ」と、自分をそのまま認めて受け入れる感覚です。自己肯定感が高いと、良い面・悪い面ともに認め、他者の評価に左右されない本当の自信が生まれます。子どもの自己肯定感を育むには、現在の子どもを受け入れ、認め、応援するようにします。

 

子ども自身が「自分は受け入れられている」と感じられる、褒めるコツについて池江さんに伺いました。

 

沼田:著書には「子どもを伸ばす親は、少しでもできたらいいところを褒める

ダメにする親は完全主義で、最後まで完璧であることを求める」とあります。耳が痛いなと思う親は多いと思いますが、「自分は褒めているつもりだ」と言う親もいるかもしれませんね。一方で、子どもに聞くと「親から褒められていない」と言うかもしれません。

池江:親が褒めたいポイントと、子どもが褒められたいポイントが違うのです。

幼稚園になると文字が書けるようになりますが、園児がある日、「先生見て」と、私のところに嬉しそうに絵日記を見せに来てくれました。見てみると、みみずのような文字と絵らしきものが少し書かれているだけ。きっとお父さんやお母さんは納得しないでしょう。でも私は、「見せてくれてありがとう。これは○○ちゃんとお母さんかな? すごく楽しそうだね。また見せてね」と話します。そうすると子どもは満面の笑顔になって、満足して帰っていく。それを繰り返すうち、1年後には別人のような絵日記が描けるようになります。

沼田:子どもは楽しければ自然に続けるのに、親が「字をきれいに書きなさい」など余計な口出しをすると、やりたくなくなってしまう。

池江:「だめでしょう、〜〜しなさい」ばかりの子育てより、「やったね、嬉しいね、幸せ!」という子育てのほうが楽しいはず。子どもと一緒にワクワクし、親も一緒に成長する気持ちでいたらどうでしょうか。

 

<まとめ>

 

「子どもの集中力は長続きしない」と言いますが、その「集中力」は机に向かうときだけのものと考えていませんか?

 

子どもの集中力はもっと多様です。いたずらをしているとき、積み木で遊んでいるとき、絵を描いているとき、子どもは高い集中力を発揮しています。その集中力は大人よりも深く、長く持続しているものであることを親は認識すべきかもしれません。

 

また、子どもは予想以上に大人の評価に耳を傾けています。子どもが一生懸命やっていることに対しては、少しでもできたら褒めることを心がけるようにしたいものです。完璧主義で、できないことをけなしていては子どもの自己評価が下がってしまいます。

 

後編では、「自由と放任の違いは?」と悩む親からの質問に池江さんが答えます。

後編はこちらから:子育ては自由に?放任との違いは?保護者の悩みに答えます

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