教育・子育て

2023/07/31

「ありがとう」──感謝の言葉が親子を変える! 周囲に愛され幸せになる人間を育む秘訣とは?

毎日の生活の中で、どのぐらい「ありがとう」と言っていますか?

家族だから気恥ずかしい、部下だから言いづらいなどと思っていませんか?

お子さんはいつも周囲に「ありがとう」と言えていますか?

 

「オリンピックに出場するトップアスリートの勝敗を分けるのは、「ありがとう」を言える気持ちです。「ありがとう」と言える選手には、自然と力のある指導者が集まります」と話すのは、オリンピックや世界選手権のトレーナーとして、20年以上帯同してきた矢島実さんです。

素直に感謝の気持ちを表すことができると、どのような効果があるのでしょうか。

 

子どもの「イライラ」「メソメソ」の原因は食生活にあるかもしれないという、気になる栄養学のお話もあわせて伺いました。

 

矢島実さんとは?

株式会社モミモミカンパニー代表取締役。癒しの治療空間「aqua」代表。児童発達支援事業所「サンタクロース」グループ代表。一般社団法人発達改善支援協会代表理事。

1969年東京生まれ。慶應義塾大学理工学部卒業後、東京医療専門学校で鍼灸マッサージ師の資格を取得。シドニー、北京、ロンドン、リオオリンピックトライアスロン競技トレーナー。20年にわたり各スポーツの国際大会や世界選手権、アーティストのコンサートメディカルトレーナーとして帯同している。

本業のかたわら、“ココロのセミナー”を全国で開催し支持を得る。現在は児童発達支援にも力を入れ、さまざまなNPOや協会の理事などを務めている。

 

オリンピック選手は「ありがとう」を大事にできる、良い人が多い

沼田:本日は矢島実先生のお越しいただきました。オリンピックや国際大会のトレーナーとして帯同してはや20年、さまざまな選手を見るなかで「ありがとう」という言葉の大切さに気づき、まとめたのが近著の『幸運を呼ぶ「ありがとう」のチカラ』(ごま書房新社)ですね。

矢島:はい。自分が見ている世界というのは自分が作り出しています。脳というのは「一人称・二人称・三人称」がない世界なので、「私が幸せ・あなたが幸せ・彼が幸せ」という区別がつきません。つまり、心を込めて「ありがとう」「幸せ」と言えば、自分自身がそういう状態だと錯覚をするのですね。すると、幸せホルモンがたくさん出て、顔がツヤツヤしてきます。

沼田:そもそも、どんな人にも素直に「ありがとう」と言える人には、誰しも良くしてあげたくなりますよね。

矢島:その通り。選手ならば、「この人にメダルを獲らせてあげよう」と、いいコーチが集まるようになります。オリンピックというトップレベルの場になると、人の影響をものすごく受けるので、敵が多い選手は難しいですね。だから、オリンピックでメダルを獲るような選手は、やはりいい人が多くて周りにファンが多いのです。

沼田:だからと言って、親が子どもに「有難う」を強要するのはちょっと違いますよね。

矢島:そうですね。親が子どもに「わあ、ありがとうね」と言っていれば、子どもも自然とお礼を言えるようになります。また、褒めるよりももっと効果的なのが「驚く」です。そろばんができたとき、「わあ、すごいね」。いい点数を取ったときも「びっくりした!」と言ってあげてください。子どもの心がすごくくすぐられて、意欲が増します。「褒められない=愛されていない」と思ってしまう子も結構いますので、そういう子にも効果的です。

沼田:一方で、「ありがとう」の対極にあるのが「怒り」ですよね。なぜアンガーマネジメントが大切なのでしょうか。

矢島:怒りというのはすべてを壊します。一度怒りという感情を発動させると、友だちを失ったり、会社にいづらくなったりと、人間関係が元に戻らなくなるのです。怒りをあまり出さないほうが、トラブルが少なくなります。

沼田:恐らく皆さん自制心は持っているのでしょうが、親はついつい自分の子どもとなると、感情的に怒鳴ったり叱りつけたりすることも多いと思います。

矢島:子ども時代にDVを受けたり、暴言を浴びせられたりして育った人は、脳の一部分が萎縮していることがわかりました。子どもに対して怒らないほうがいいというのは、科学的にわかっていることなのです。

 

 

不適切な怒りは子どもの脳に悪影響を与える

『子どもの脳を傷つける親たち』(NHK出版)の著者で小児神経科医の友田明美先生がハーバード大学と共同で行なった研究によれば、子ども時代にDVを目撃して育った人は、脳の視覚野の一部が萎縮していたことがわかりました。視覚野が萎縮すると、相手の表情が読み取りにくくなり、コミュニケーションに支障が出てしまうことがあるそうです。

 

「虐待」というと身体的暴力をイメージするかもしれませんが、実は言葉の暴力のほうが脳のダメージが大きいという結果も出ています。子どもに暴言を浴びせ続けると、脳の聴覚野が肥大化する可能性が高くなると言われています。聴覚野が肥大化すると、会話するときに脳に余計な負荷がかかり、人とのコミュニケーションに支障を来たすと言います。

 

また、記憶や学習、感情の制御、犯罪抑制力など、高度な精神活動を司る「前頭前野」も萎縮する可能性もあると指摘されています。前頭前野が萎縮すると、行動障害やうつ病の一種である気分障害を引き起こす危険性もあるのです。

 

沼田:矢島先生ご自身は、お子さんを怒りたくなるときはないのですか?

矢島:結構ありますよ。ただ自分は、トータルで70点が取れればいいと思っているのです。自分自身に100点満点の親であることを求めていない。もちろん、子どもにも100点を求めていません。世の中の多くの人は「自分らしくいることが大事」と言いながら、しっかり人と比べていますよね。だから、「皆さん、あんまり無理せず自分の好きなことやりましょうよ」と言うのですけれど。

沼田:やはり自分にゆとりを持つことが大事ですよね。自分にゆとりが出れば、子どもに対してもゆとりが出てくるでしょう。

矢島:「自分が我慢しているから人にも我慢してほしい」と無意識に思ってしまうのでしょう。自分が好きなことをやっていれば、人のちょっとしたことも許せますよ。

 

子どもの「イライラ」「メソメソ」の理由は食事にあった

沼田:矢島先生の、食育・栄養学の研究も素晴らしいものがあります。糖分の過剰摂取と感情コントロールには関連があるという点について、詳しく伺いたいです。

矢島:おやつのような単純糖質を摂ると、血糖値がいきなり上がります。するとインスリンが出て血糖値を下げようとします。血糖値が急激に上がったり下がったりするジェットコースターのような状態を繰り返していると、だんだんと血糖値が下がりやすくなってきます。人間というのは、血糖値が下がると「イライラ」「メソメソ」という状態になるのですね。だから、15時ごろになると気分が下がってくるわけです。

沼田:甘いものの中でも、特に避けたほうがいいのは何ですか?

矢島:単糖類(ブドウ糖)ですね。逆に「複合糖質」といって、糖類がたくさん重なっている糖質のほうが消化・吸収に時間がかかります。だから菓子パンよりは白米、白米よりは胚芽米を食べたほうがいい。朝食に菓子パンと牛乳しか食べないと、一気に血糖値が上がって一気に下がるので、11時ごろにお腹が空いてイライラが始まります。

沼田:食事は身体にとってだけではなく、メンタルにも大きく影響する事を知っていなければなりませんね。

 

 

糖には種類がある

糖は大きく分けて「単純糖質」と「複合糖質」の二つに分けられます。

 

単純糖質は二糖類が主で、砂糖や果物、お菓子類に含まれます。複合糖質はでんぷん(多糖類)が主で、ごはんや小麦、じゃがいもなどに含まれます。

 

血糖値が最も上がりやすいのはブドウ糖です。その次に、ブドウ糖と果糖が結合した「砂糖」です。疲れたときなど手っ取り早くエネルギーを補給したいときは、分解せずにすぐにエネルギーとなる栄養を体が求めるため、甘いものが欲しくなります。

 

しかし、血糖値が急激に上昇するとインスリンが大量に分泌され、結果として低血糖を引き起こしやすくなります。低血糖が続くと、今度は血糖値を上昇させようとしてアドレナリンが放出されます。アドレナリンは神経伝達物質の一つで、興奮したときに大量に血液中に放出されるホルモンです。アドレナリンが出すぎると思考力が減退し、集中力がなくなり、すぐにキレやすくなります。

 

これを防ぐには、

・よく噛んでゆっくり食べる

・野菜→タンパク質→炭水化物の順に食べる

・炭水化物の重ね食いを避ける(ラーメンとチャーハンなど)

・低GI(グリセミック・インデックス)食品を選ぶ

・食後に運動をする

などの対策が挙げられます。

 

矢島:もちろん、一概にすべてのお子さんに当てはまるわけではありません。サッカーやバスケットボールのように持久力が必要な運動をしているお子さんは、糖分だって必要ですし、甘いものを食べたり飲んだりしても分解されてしまいます。ただ、あまり運動せずに学習塾に通っている子どもや、主婦の方で運動量が少ない方というのは、糖質の摂り過ぎで血糖値の変動が大きくなると、怒りやメソメソというマイナス感情も引き起こします。

沼田:やはり食事の時間は決まっているほうがいいのでしょうか?

矢島:そうですね。決まった時間にある程度の量を食べる癖をつけておくと、体温が上がりやすいですし、心も平常心でいられます。その日のリズムも安定しますので性格も穏やかになりますね。また、「時に起きて、○時にご飯を食べて、○時に寝る」というリズムが形成されていると、世間一般のルールを守るのも苦痛ではなくなります。

沼田:学習塾などで夜が遅いお子さんはどうすればいいですか?

矢島:子どもはどうしてもお腹が空くのが早いので、朝・昼・夕・夜のように4食にしてしまって構いません。大切なのは中身。おすすめなのは「味噌玉」を作っておいて、朝と晩に必ずお味噌汁だけは飲むようにするといいと思います。落ち着きがないお子さんは、パスタ、パン、ラーメン、うどん、ご飯などの炭水化物が多くてたんぱく質不足というケースが多いので気をつけてください。ただ一方で、肉や豆類を食べているのにたんぱく質が不足している子もいます。そういう子はたいてい、姿勢が悪くて胃がうまく機能せず、たんぱく質を分解できていないのです。そういう子には、大根を一緒に食べさせると消化吸収が良くなります。

沼田:確かに、甘いものだけでなく炭水化物を多く食べているお子さんは多いですよね。

矢島:糖質が分解されエネルギーとなる過程で、ビタミンB群が必要になります。酵素を作る働きをする、体にとってとても大切な役割を持つ栄養素です。甘いものを食べすぎるとビタミンBが不足し、ニキビや口内炎ができたりします。

 

 

矢島先生直伝! 味噌玉の作り方

「液体の白だしにあごだし、オメガ3の油を混ぜ、味噌を入れてラップに包んで味噌玉を作り置きしましょう。味噌はできれば手作りで無農薬の物がいいですね」と矢島さん。

 

オメガ3オイル(オメガ3脂肪酸)とは、魚やアマニ油・エゴマ油に豊富に含まれており、筋活動、血液凝固、消化、生殖能力、細胞の分裂および成長などの重要な働きをしています。しかし、人体の中で作り出すことはできないので、食品から必ず摂取しなければならず、「必須脂肪酸」と呼ばれています。

 

オメガ3オイルは加熱によってダメージを受けてしまうので、生のままで摂取するのが望ましいと言われています。しかし、味噌汁やスープに入れる程度(180℃で5分ほど)なら栄養素は損なわれません。

 

「ただし、アマニ油やエゴマ油などは酸化しやすいので、1か月ぐらいで使い切るようにしましょう。良質なエクストラバージンオイル、特にオリーブオイルで、低温圧搾の物はいいですね。この味噌玉をお椀に入れて、あとはわかめやネギを少し入れるだけで完成です」(矢島さん)。

 

自己受容の高い子どもを育てるのが親の役目

沼田:親御さんとしては、「子どもが成功するために、できるだけのことをしてあげたい」と思っているはずです。先生はどんな人が「成幸者」だと思われますか?

 

矢島:「あなたは幸せですか?」と聞かれて、「幸せです」と答えられる人は成幸者だと思います。幸せとか豊かさというのは、本人がそう思えるかが大事ですよね。だからもし親御さんが子どもに「成功してほしい」と願うのならば、感謝をできるようにしてほしい。「自分は幸せだな」と周りに感謝できる人というのは、すでに幸せです。感謝できない人というのは、不平不満が多くて責任を周囲に押し付けようとします。

 

沼田:コロナ禍のように、自分の思うようにいかない局面というのは誰にでも訪れますが、そこで頑張れる人と、影響を受けてしまい「コロナのせいで自分は失敗した」と不満ばかり言っている人に分かれますね。

 

矢島:大切なのは自己受容感です。自己受容が高い子どもは感謝ができるし、挑戦ができるし、物事を乗り越えていける。そういう子どもを育てるというのが、親や教育者のミッションですね。

 

沼田:大人からたくさんの愛を貰っている子どもというのは、口からたくさん感謝の言葉も出てくるし、幸せオーラを発しているからみんなから愛されるし、だからこそ、いつもニコニコ楽しそうです。

 

矢島:大人でも一緒ですよ。感謝してくれるとその人に仕事を振りたくなるし、頼みごとをしたくなる。「感謝できるか」と「幸せか」というのは、比例していると思いますね。

 

<まとめ>

いつも周囲に感謝の言葉を伝えている人は、それが周りにも伝わります。その結果、いろんな人から愛され、声をかけられます。

 

オリンピック選手のように、トップクラスの才能を持ち、努力を重ねた人たちでさえ、勝負を分けるのは、こうした「ありがとう」という言葉だと矢島さんは話します。

 

もし普通のビジネスマンが「ありがとう」と言うことを心がけたら、仕事も家庭もきっと大きく変わることでしょう。

 

そして、そのような感謝の言葉が自然と出てくる子どもを育てるのが親や教育者の役目です。子どもが「ありがとう」を口癖にできるように、親も常に「ありがとう」と言いたいものです。

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