教育・子育て

2022/12/23

MBA修了後に幼稚園の副園長へ異色の経歴を持つ教育者が語る、“伸びる子”を育てるための秘訣

MBA修了後、教育者の道を選んだ森田晴彦先生。森田先生が副園長を務める幼稚園は、英語、リトミック、異年齢教育など特色のある教育方法を取り入れ、5年間で園児数を2.5倍にまで増やしました。また船井総合研究所の従業員満足度調査においても、職員職場満足度100%を達成しています。教育者の目線から見た、“伸びる子”“伸びない子”の違いと、親の心構え、そして先生との付き合い方とは何か。株式会社イシド代表取締役の沼田紀代美がインタビューしました。

 

子どもはすぐに本質を見抜く!「子どもに伝えることは自らも実践する」が基本

沼田:本日は川越なかよし幼稚園副園長であり、いしど式「ライズそろばん教室」を運営している森田晴彦先生にお越しいただきました。幼稚園は2015年に開校していますので、もう7年が経っていますね。副園長に就任されたのはいつ頃になりますか?

森田:今から12年前です。

沼田:今日の先生の背景は新しい幼稚園の完成予想図ですが、完成になるのはいつですか?

森田:2023年の3月です。念願の新しい園舎ですね。

沼田:楽しみですね。森田先生は今幼稚園の仕事をされていますが、大学では経営を専攻し、MBAも取得されています。一般企業の勤務経験もおありですが、幼児教育に関わろうと思ったきっかけは何ですか?

森田:もともと祖父が会社を経営しており、いつか私自身も経営に携わりたいと思っていました。大学を卒業した後に銀行に入行して実務経験を積みましたが、さらに勉強をしたいと思ったので大学院に入学してMBAを取得したのです。そこから一般企業の経営に関わり始めたのですが、会社のグループの中に幼稚園があり、実はその園長を母が務めていました。当初、私自身は幼稚園に関わるつもりはなかったのですが、幼稚園経営についての母の悩みを聞くうちに、「MBAを取った自分なら役に立てることがあるのでは」と考えたのがきっかけです。幼児教育の魅力と、教育業界で働く人の悩み、保護者の方の熱い思いに触れ、他の業種では感じることのできない手応えを感じるようになりました。気づけば、この業界にずっといるという感じです。

沼田:教育にハマってしまったわけですね(笑)。ご著書もありますが、幼稚園経営とMBAを掛け算するというのは珍しいところですよね。そこで伺いたいのですが、お子さんと接するなかで森田先生が大切にしていることはありますか?

森田:当たり前に聞こえるかもしれませんが、「子どもに伝えることは私たちが守らなければならない」ということです。私自身も3人の男の子の父親ですが、普段言っていることと子どもに伝えることに矛盾が生じるときがある。幼稚園でも家庭でも、子どもに「言っていることとやっていることが違うよ!」と指摘されるのですね。幼児教育で達成したい大切なことはたくさんありますが、その前に基本的なことを守らなければならないと思います。職員教育においても、「子どもたちに伝えることは私たちが必ず実践します」と伝えるようにしています。

沼田:まずは大人が見本を見せることは大事ですよね。親が資格試験などの勉強をしている子どもは、自然と自分から勉強しますよね。シンプルだけど大事なことだと思います。

 

子どもを心配しすぎない。親がのんびり構えているほうが子どもは伸びる

沼田:教育において大人の関わり方はとても重要ですが、“伸びる子”と“伸びない子”の違いには何があると思いますか?

森田:伸びる子というのは、やはり好奇心が旺盛だと思います。何事にもチャレンジできる子は伸びるのですが、その裏には、やはり挑戦することを励ましてくれる保護者の存在があるのではないかと思います。私たちの幼稚園は英語教育を特色としており、「英語を習得させたい」という保護者の方が多いです。そのなかで英語力が伸びる子というのは、お父さんやお母さんが英語に対してのんびり構えている方が多いです。「先生、うちの子は聞き取りできていますか? 話せていますか?」と必死な保護者の方というのは、子どもの“できないこと”に目がいってしまう。そうすると、子どものことをうまく受け入れられなくなってしまうのです。

沼田:すごくよくわかります。そろばんも一緒ですよね。

森田:そろばんも一緒です。一方で、「幼稚園のことはすごく好きで、英語はまあ、おまけぐらい。私も妻も英語はまったくできないです」という親御さんのほうが、子どもはめちゃくちゃに伸びます。

沼田:そうですよね。特に学習の最初というのは親御さんも気になるから、ついつい授業についていけるか気にしてしまうのですが、伸びる子というのは後から伸びてくるように思います。

森田:幼児期における英語は何のためにやるかというという議論は常にあるのですが、幼児期に英語を勉強したからといって英語が好きになるかは子ども次第。でも、幼稚園に常駐している外国人の先生とコミュニケーションを取り、「あのとき先生とお話できて良かったな」という体験を持っていると、高校受験や大学受験で英語を頑張らなきゃいけないときに踏ん張れると思うのです。反対に、幼児教育で英語を無理強いするようなアプローチをしてしまうと、そうした場面で頑張れなくなってしまう。だから、英語を頑張れる根っこになるような部分を育てたいと思っています。

沼田:お子さんのパワーはさまざまで、吸収してすぐに出せる力もあれば、ずっと吸収してあるときドカンと出てくる力もあると思います。

森田:これは幼稚園の話ですが、幼稚園では学習だけでなくいろんな活動があります。すると、お子さんそれぞれに強みと弱みがあるのがわるのですね。そのなかで自分のいいところを見つけるチャンスがある。いろんな可能性を発見できる場を提供することが、本人のためにも、また他者と仲良くなるきっかけになるとも思います。

沼田:よくわかります。

 

子どもはコントロールできない。子どもの選択と決定を大事にしてほしい

沼田:それでは、親はどういう心構えでいたらいいのでしょうか。

森田:いしど式にお子さんを通わせている親御さんは、やはり「自分たちがうまく道筋をつけてあげなきゃ」とご心配になるかと思います。ただ、私自身もそうでしたが、子どもが何か決定をするときに親や先生に干渉されるというのはとてもストレス。大人になるとそれを忘れてしまうのですね。子どもが一人の人間として決定すること、そしてそれを積み重ねることが大事だし、親としてはそれを成功と思って子育てしてほしいです。でも、そうは言ってもご心配でしょう。いろいろと口を出してしまうのも、それはそれで正解だと思いますよ。

沼田:コントロールしようとしてはいけないですよね。

森田:そうですね。それに、コントロールはできないと思います。ただ、可能性はたくさん与えてあげてほしいですね。そして何かにフィットしなかったら、次にチャレンジして、子どもが夢中になれることを見つけてあげてほしいと思います。

沼田:保護者として、先生といい関係を築くコツがあれば教えてください。

森田:親御さんが教育者に対してものすごく期待される気持ちはよく理解できます。ただ教育者も人間なので、丁寧に接していただければ嬉しいし、親身になれます。一生懸命に取り組んでいるなかで、クレームが寄せられてしまうのはやはりショック。ただ経営者としてクレームを考えると、ボタンのかけ違いというケースが多いかもしれません。そういうときに感情的になって先生に詰め寄ると、トラブルになってしまうのですね。お子さんが心配なのはわかりますが、少し冷静になって「もしかしたら思い過ごしかもしれないけれど、意見を聞かせてください」という態度のほうが、話がややこしくならないかもしれません。

沼田:お互いのコミュニケーションが一方通行にならないようにというのは大事ですね。

森田:ただ一方で、共感性が乏しいような、問題のある先生がいるのも事実。そういうときは管理者にすぐに相談してほしいです。親御さんのなかには、先生たちを尊重しすぎている人もいる。冷静な態度で話していただければ、先生たちも学びにつながります。

沼田:先生に遠慮しすぎてしまう親御さんはたくさんいますよね。やはり子どもを悪く思われたくないという気持ちがある。

森田:「お世話になっています。いつもありがとうございます」と言ってもらえれば、先生も心を開くと思いますよ。

沼田:教育には答えがないので、先生だから、親だから正しいというのはないですよね。お互いに一歩引いて見ることは大事だと思います。本日はありがとうございました。

 

▼プロフィール

森田晴彦(もりたはるひこ)/川越なかよし幼稚園副園長

立教大学法学部卒業、東証一部上場金融機関勤務を経て立教大学大学院経営学研究科修士課程(MBA)修了。その後一般企業経営を経て、幼稚園の副園長に就任。

母親が園長を務める幼稚園の事業再生に取り組むも、さまざまな壁にぶつかる。幼稚園での子どもたちと教師たちの関わりを見つめるなかで、マネジメントや組織運営がうまくいかない理由は、最新の高度な経営理論や経営手法が実践できていないからではなく、子どもたちが日々の生活で大切にしている思いや約束事、ルールを実践できていなかったからであることに気づき、幼児教育と組織マネジメントを融合する経営理論を構築し実践する。

現在は川越市と富士見市にて、いしど式『ライズそろばん教室』新河岸校とみずほ台校の運営も行っている。著作に、『MABでは教えてくれないリーダーにとって一番大切なこと』がある。

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