教育・子育て

2022/09/30

悔し涙の価値 ~悔し涙の経験が、子どもを大きく成長させる|いしど式代表 沼田紀代美

同時にそろばんをスタートした、ある姉妹の話

ある姉妹が同時にそろばんを習い始めました。お姉ちゃんは小学校2年生。妹は年長さんでした。

最初の1年間はお姉ちゃんがどんどん進んでいきました。2年生は学校で九九も始まりますし、数の理解力も大きく差がありますから、当然のことです。
しかし、1年が過ぎ、5級ぐらいになると妹がどんどん追いついてきました。
お姉ちゃんは何でもできる優等生です。器用で理解力も高いのですが、少々神経質で、必要以上に周りの評価を気にしているところがありました。

優秀なお姉ちゃんは、今までどんなことでも妹には負けたことがなかったのでしょうが、
そろばんに関しては、どんどん実力が追いつてくる妹に、お姉ちゃんの表情はプレッシャーで日に日に硬くなっていくのが分かりました。練習中もイライラすることも増えていきました。
とうとう、妹がお姉ちゃんに追いつき、同じ級の検定試験を受けました。
妹は、検定試験を受ける日もルンルン、前向きに試験に挑戦しました。
お姉ちゃんは、緊張で硬くなっているのが分かりました。

結果は、妹が合格し、お姉ちゃんは不合格。
結果を知ってお姉ちゃんは声も出さずに大粒の涙をポロポロとこぼしていました。

 

その涙のわけは?

涙には「わがままを押し通そうとする涙」「感情が高ぶった涙」「甘えの涙」など、いくつもの種類があります。「嘘の涙」もありますね。
このお姉ちゃんが流した涙には「悔しさ」や「プライドが傷ついたこと」「努力が報われなかったこと」「ふがいなさ」などの感情が混じっていたのでしょう。

悔し泣きは自己を成長させる涙です。
自分に向き合わなければその悔しさは解決できません。

 

1:もう嫌な思いはしたくない。挫折をしない選択

思い通りの結果が出なかった時、心の防衛本能が働きます。
心理学では自我防衛機制と呼ばれる心の働きです。
自尊心が傷つかないように、出来なかった理由を見つけ出そうとします。

「忙しくて時間が無かったからできなかった」=(自分の能力が足りないわけじゃない)
「本当は別にやりたいことがある」=(別のことなら、自分の能力が発揮できる)

など、無意識に自分を守ろうとする心理が働きます。
しかし、これを繰り返せば当然、いつまで経っても何かを達成することはできません。
小さな挫折がある度に、無意識に言い訳を考えて「合理化」したり、「逃避」することが癖のようになってしまうと、大人になってもその思考は変りません。
子どものうちに、乗り越える経験をすることはとても意味のあることです。

 

大人がしてあげられること

ところが、この姉妹のお母さんは「姉ちゃんが可愛そうだから、そろばんを辞めさせたい」と言ってきたのです。
母親だからこそ、お姉ちゃんのプライドを守ってあげたいと思ったのでしょう、その優しさや、悲しみに共感する気持ちはとても良く分かります。
子どもの頃の年の差は、大きなアドバンテージであり、年上の子が何をするにも優位ですが、成長すれば、それはどんどん薄れていきます。
年上でも、年下でも、それぞれ得意なこと、不得意なことがあって当たり前、それを個性として認めてあげることの方が大切なのではないでしょうか。
それなのに、親が逃げ道を作るようなことをしていては、せっかくの成長の機会を奪うことになってしまいます。

 

2:失敗を成長の糧に!挑戦する選択

お姉ちゃんへの励ましと、お母さんの説得により、なんとかそろばんは辞めずに続けることになりました。
不合格だった試験にも再挑戦して、見事合格しました。
妹に先を越されたお姉ちゃんは、合格に大喜びという感じではなく、どこかちょっと恥ずかしそうな、照れくさそうな様子でした。しかし、逃げずに、再挑戦した経験は大きな自信になっていました。

 

先人の知恵。格言や名言、ことわざ

努力型の天才といわれるイチロー選手もこんな言葉を残しています。

「4000のヒットを打つには、僕の数字で言うと、8000回以上は悔しい思いをしてきているんですよね。それと常に、自分なりに向き合ってきたことの事実はあるので、誇れるとしたらそこじゃないかと思いますね」

失敗や、上手くいかない時こそ、成長のチャンスです。
イチロー選手の他にも、偉人たちはこんな言葉を残しています。

私は決して失望などしない。なぜなら、どんな失敗も新たな一歩となるからだ。
-トーマス・エジソン-

成功を祝うのはいいが、もっと大切なのは失敗から学ぶことだ。
-ビル・ゲイツ-

私の最大の光栄は、一度も失敗しないことではなく、倒れるごとに起きるところにある。
ー本田宗一郎

「結果にこだわるな、成功にこだわるな、成長にこだわれ」
ー本田圭佑

「私は失敗を受け入れることができる。しかし、挑戦しないことだけは許せないんだ。」
ーマイケル・ジョーダン

 

悔しさが成長に与える影響

スポーツも、ビジネスも、学問も、どの分野でも失敗を恐れずに、何度挫折をしても、目の前の壁を乗り越えてきたことが分かります。
子ども達が成長していくうえでも、必ず壁を乗り越えなければならない時がやってきます。
能力を発揮するためには、楽しく取り組むことがパフォーマンスを上げる秘訣ですが、
悔しさも同じくらいに、能力を伸ばす効果があります。
悔しいからこそ、もっと努力をする。
悔しいからこそ、逃げない。
悔しさを乗り越えた先には、自信や自己成長があり、一回り大きくなった自分自身を感じることができるでしょう。

 

ゆっくりでもいい!一人ひとりのペースで成長を感じて

子どもは、ひとり一人得意なことは違います。得意なことがあれば、当然苦手なこともあるでしょう。自分が一番得意なことであっても、上には上がいて、敵わない相手も当然います。
「ひとり一人、違って当たり前」と、頭では理解しつつも、親はつい他人と比較して、人より遅いと心配してしまいます。兄弟だからといって、成長の序列を守らなければならないことはないはずです。

私は、これまで多くのお子さんのそろばん指導をしてきました。そろばんを始めると、驚くほどの速さで上達していくお子さんもいます。反対に、心配になるくらい上達が遅いお子さんもいます。最終的に、どちらのお子さんが高い級を取得し卒業するかというと、最初は上達が遅いお子さんの方が上に行く場合が多いのです。

それは、なぜでしょうか?

最初に上達が早いお子さんは、能力全般が高くて器用な場合が多いです。そのようなお子さんは、壁が現れると、意外と脆く、そこで挫折してしまう場合も多いのです。
最終的に、粘り強く挑戦を続けられるメンタルが結果を左右するのです。

いしど式「めげない」「逃げない」「あきらめない」

困難があった時、それを乗り越える経験をしたお子さんは、乗り越えるための工夫をするようになります。失敗を恐れなくもなります。
「めげない」「逃げない」「諦めない」この気持ちを持てるようになることが大切なことだと思います。

妹に追い抜かれてしまったお姉ちゃんは、その後もそろばんを続けましたが、妹よりも先に進級することはありませんでした。けれど、神経質に周囲を気にすることがなくなり、おおらかな性格に変わっていきました。笑顔が増えて、のびのびとそろばんを楽しんでいました。

妹に自分よりも得意なことがあってもいい。
失敗しても、やり直しはできる。
自分がいつも優位でいる必要はない。
そんなことをそろばんを通して学んでくれたのではないかと思います。
大人になった時にこそ、悔し涙を拭いて立ち上がれるようになってほしいと思います。

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