そろばん学習

2022/09/30

子ども時代にそろばんに打ち込んだ18歳が医大受験生のいま、思うこと

5歳で教室に入学して以降、コツコツと努力を続け、小5で暗算10段、中2で世界大会総合優勝を果たした伊勢田知広くん。友人からは「歩く電卓」と言われるほど、高い計算能力を誇ります。現在は、医者になるという夢に向かって大学受験のため勉強に向かう日々。そんな伊勢田くんに、そろばんをやっていて良かったことや、学業への好影響について伺いました。

 

「一番上を獲りたい」という気持ちで、帰宅したらすぐにそろばんに取り組む

──伊勢田くんは5歳・年中さんのときにそろばんを始められました。そろばんを始めたきっかけを教えてください。

伊勢田くん: 昔そろばんを習っていたという父の勧めで始めました。ただ、始めたときはそんなに楽しくなかったです。やりたい習い事でもなかったですし、興味もありませんでした。他にも習い事をしていて、体操やバスケットボール、水泳、書道、英語教室などに通っていたのですが、どちらかというとそちらのほうが楽しかったですね。

──いつ頃からそろばんの楽しさに目覚めたのですか?

伊勢田くん: 毎月検定試験があるのですが、これを目指して頑張るうちにそろばんが楽しくなっていきました。検定試験を受験することや大会に出場することは自分で決めるのですが、「一番上を獲りたい」という気持ちでした。ただ、僕自身は、すごく緊張してしまうタイプ。大会前に緊張するのですが、目標を達成できたときは、ホッとしたというのが率直なところでした。

──当時は1日どのぐらいそろばんの練習をされていたのでしょうか。

伊勢田くん: そうですね、幼稚園の頃は教室で2時間ぐらい練習し、帰宅後にまた2時間ぐらい練習するような生活でした。小学生のときも4時間ぐらいです。学校の勉強や塾の宿題との両立をどのようにしていたかというと、そろばんの練習というのは、決めた時間内で達成したい目標を決めて、集中して練習に取り組みます。そしてそれをクリアしたら今日はおしまい、というふうにしていました。余った時間は勉強時間や自由時間に充てていました。

──暗算世界大会はどんな特徴がありますか?

伊勢田くん: 日本の大会は、かけ算、割り算、見取り算というものだけなのですが、世界大会はルートや分数の足し算など、計算のバリエーションがあるのが特徴です。また、世界大会には「途中計算を書いてはいけない」というルールがあります。

──大会をどのように攻略されたのでしょうか。また計算に集中しているときの頭の中はどんな感じですか?

伊勢田くん: 日本の大会に関しては、いしど式で習ったことをやれば攻略できます。世界大会は、それをさらに応用し、組み合わせる必要があります。計算に集中しているときというのは、周りのことが一切気にならないで、知らないうちに時間が経ってしまう感じです。友だちには、「そろばんをやっているときはすごく幸せそうな雰囲気が漂っている」と言われます(笑)。実際に楽しいですね。

 

文字を数字に置き換えて読むのが得意。そろばんのおかげで数学には苦労していない

──そろばんの仲間はどんな人たちでしたか?

伊勢田くん:  毎日会っているので家族に近い感じですね。気を遣わず、どんなことでも言い合えます。また、僕が通っていたおゆみ野中央教室には、尊敬できる先輩がいたり、切磋琢磨できる仲間がいたり、かわいい後輩がいたりして、とても幸せな環境でした。単なる友だちとは少し違うというか、悩んでいるときでも相談に乗ってくれる、心の支えになるような存在です。そろばんを通じて人間関係の輪が広がりました。

──そろばんが学業に与えた影響はどのようなものがありましたか?

伊勢田くん:  他の人よりも数学が得意です。よく、基礎計算と数学は別物だよという人がいるのですが、僕はあまりそう思わないですね。そろばんで数字の感覚が発達したというか、数字から読み取れる情報がたくさんあるわけです。これは独特の感覚だと思うのですが、文字を数字に置き換えるのが得意。よく歴史の勉強で、年号を言葉に置き換えると思うのですが、その逆パターンです。この感覚は数学だけでなく、化学の公式でも使えています。最近学習した有機化合物の化学式でも、化学式がどういう構造になっているか、問題文を読んだだけである程度イメージすることができます。

──中学受験をしていらっしゃいますね。どのように勉強と両立されましたか?

伊勢田くん: 受験のためにそろばんをやめてしまう子がいるのですが、それはもったいない。そろばんはいろんなところで活躍するものですから、続けていたほうがいいと思います。

 

将来の夢は医者。人の命を救う外科医になりたい

──そろばんをやっていて良かったと思うときは。

伊勢田くん:  よく学校の友だちから、「その計算能力が欲しい」と言われることがあります。そんなときは誇らしいですね。

──そろばんを続けていると、壁にぶつかったり、挫折感を味わったりすることがあると思います。どのように向き合ってきましたか?

伊勢田くん:  壁にぶつかったときは、「なぜできなかったのか」という根本原因をとことんあぶり出し、そこで見つかった改善点を、自分に負荷をかけながら練習していました。当時を振り返ると、一つはメンタル面含めて競技自体があまり上手くいかなかったときもあるのですが、計算スピードが足りないなと感じることが多かったのです。そこで自分の頭と手に負荷をかけながら、スピードを意識して練習をしていました。

──ご家族からのサポートにはどのようなものがありましたか?

伊勢田くん:  そろばんの読み上げを手伝ってくれるようなことはなかったのですが、大会のときには付いて来てくれたりして、心強かったです。

──将来の夢はなんですか?

伊勢田くん:  中学受験をして、現在は私立市川学園高校に通っています。将来の夢は外科医になって命を救うことなので、大学受験は国公立の医学部を目指しています。医者になりたいというのは小さい頃からの夢。怪我をしたりアレルギーを起こしたりしたときに救ってくれたのがお医者さんでした。自分もそんな医者になりたいと思っています。

──現在、そろばんを習っているお子さんたちにメッセージをお願いします。

伊勢田くん:  そろばんは、やり方がわかれば楽しくなると思います。でも、わかるまでが難しい。だからこそ、一問ずつでも食らいついていってほしいと思います。そうすれば楽しいそろばんの世界が待っています。

──ありがとうございました。

 

小学校高学年で頭角を現し、クラスを引っ張ってくれた伊勢田くん

──伊勢田くんとの出会いを教えてください。

林先生: 5歳で入学したときに出会ったのが最初です。教室は卒業しましたが、その後もよくお会いしています。

──伊勢田くんはどのような性格ですか?

林先生: とにかく真面目です。そして何事にも一生懸命に頑張ります。いつも穏やかですね。小学校高学年になったあたりから頭角を現しはじめ、リーダーシップをとりながら年下の後輩たちの面倒も見ていました。クラスのみんなに見本を見せてくれる、頼もしい生徒でした。

──世界大会に挑戦したときはどのように応援しましたか?

林先生: 教室では教えていないような計算方法でしたので、重点的にサポートしました。授業時間中はもちろんですが、授業前後も練習していましたね。

──伊勢田くんの強さの理由はどこにあると思いますか?

林先生: 一番は、そろばんが好きで好きでたまらないということでしょうか。そのうえ努力家。目標を決めたら必ずそこに向かってコツコツと努力をする。そこが強さにつながっていると思います。

 

決勝戦で鉛筆を落とすまさかのアクシデントも、涼しい顔で乗り越えていった

──印象的なエピソードは。

林先生: ある年に、彼に「今年の目標は何」と聞いたときがありました。きっと「日本一になることだ」と答えるだろうと思ったら、「名人位獲得です」と言うのです。この名人戦というのは、石戸珠算学園が主催する学園祭で、学園のナンバーワンを決める決勝戦のこと。それで、その目標に向かってコツコツと練習を重ねていました。ところが数日前に「先生、練習のしすぎで手が痛い。肘が痺れる」と言うので、練習禁止令を出したことがあります。それほど練習していたのです。そして当日。トップ2まで勝ち上がり、いよいよ決勝戦というとき、一番大事な場面で彼は鉛筆を落としてしまったのです。わずか50秒間しかない試合で、一秒を争うという場面なのに、これは致命的なミス。誰も想像しなかったことで、その場にいた人は「これで伊勢田くんは負けたな」と思いました。ところが彼は冷静にその鉛筆を拾って、計算に戻り、見事ナンバーワンに輝いたのです。本当にすごいことで、今でも印象に残っています。

──伊勢田くんの勉強方法は、他のお子さんと違うところはありましたか?

林先生: あるときから、「自分は次に何を練習したらいいか」ということが自分でハッキリわかるようになったようです。そこで、足りないところの練習を自らするようになりました。それも、自分で調べたり、自分で問題を作ったりと、工夫をする生徒でした。

──伊勢田くんの将来に期待するところは。

林先生: どんな道であっても、自分が進みたい道に進んでくれればと思っています。どこにいっても、そろばんで鍛えた力は伊勢田くんを輝かせてくれるはず。目標に向かって繰り返し努力し、達成したら次の目標に向かう。そんな訓練を積み重ねてきたので、どんなことがあっても負けない、投げ出さないという力は備えていると思います。彼はすでに頭の中にそろばんを持っていますので、一生そろばんに関わってくれることでしょう。

──ありがとうございました。

 

<プロフィール>

2004年生まれ。5歳・年中で石戸珠算学園おゆみ野中央教室に入学。小学5年生で暗算10段、中学校1年生で珠算10段。『クリスマスカップ2017』で、読上暗算競技中学生の部日本一を果たす。翌年の『そろばんグランプリジャパン2018』でも、読上算競技で日本一。同年ドイツ・ヴォルクスブルクで行われた暗算世界大会『Mental Calculation World Cup』で総合優勝。その計算能力が注目され、2020年NHK『ひるまえほっと』、2021年フジテレビ『めざましテレビ』に出演した。

 

<林先生プロフィール>

全国珠算連盟 教師資格上級取得。20年以上にわたり生徒を指導し、多くの競技選手を育成している。競技選手育成実績としては、全日本大会2016読上算日本一、グランプリジャパン 2018読上算日本一、クリスマスカップ  2019読上暗算日本一など。担当するおゆみ野中央教室は、石戸珠算学園約40教室が競う大会「学園祭」で2020年に最優秀教室10連覇を達成した。

 

伊勢田くんが優勝した、暗算世界大会『Mental Calculation World Cup』とは?

2年に1度行われる暗算のワールドカップ。「暗算で計算方法は自由」というフリースタイルの競技会で、各大陸から予選を勝ち抜いた参加者が、それぞれ得意なスタイルで暗算の世界一を競います。競技課題は、「4つの通常競技(カレンダー計算、足し算、掛け算、平方根)」、「競技中に発表されるサプライズ問題(6種類・トータルで10種類)」など。解答の正確性だけではなく、即興で解答方法を編み出す高度な思考力と瞬発力を求められます。

TOPページに戻る ≫