教育・子育て

2022/09/30

史上初!ジュニア四大メジャーのグランドスラムを達成した須藤弥勒選手を、一番近くで支える母・みゆきさんに聞く“諦めない子ども”を育てる秘訣

6月に欧州ジュニア選手権を制し、史上初のジュニア四大メジャーのグランドスラムを達成した天才ゴルフ少女・須藤弥勒さん。ゴルフのため、そろばんの習得に励んでいることでも知られています。そんな弥勒さんを、キャディーとして最も近くで支えているのが母・須藤みゆきさんです。弥勒さんの快進撃の理由とこれまでの振り返り、そして将来の展望について、いしど式代表・沼田紀代美が伺いました。

 

グランドスラム達成したあとに ー 悔し涙をのんだ世界ジュニア選手権


沼田:まずは2か月にわたる遠征、お疲れさまでした。6月は見事、グランドスラム達成されましたね。試合の途中、調子が出なかったときにみゆきさんが「自信が持てないような練習をしてきているの? プレッシャー負けるな!」と激励され、そこから見違えるようにプレーが変わりました。

みゆきさん:試合も3日目になると注目度が増してきて、地元の方からの応援がすごかったのです。なかには家宝のスプーンを持ってきてくださった方もいました。一方で弥勒は、少し不安になっていたようで「自分は大丈夫なのか?」という迷いが見て取れました。そこで、ああいう声をかけたのです。

沼田 :3年ぶり3度目の優勝を目指した7月の世界ジュニア選手権では残念な結果となりましたね。

みゆきさん:7月の世界ジュニアは、弥勒は動揺していました。練習のときから良いスコアが出ていて、周囲は余裕で勝てるだろうと思っていたのですが、本人はそうではなかったのです。グランドスラムを達成して注目度が高まったぶん、辛かったのかもしれません。“優勝以外価値がない”というような雰囲気が、本人にとっては苦しかったのでしょう。試合前から「出たくない」と言っていました。クラブの感覚が手の内に入らなかったようで、「ゴルフのことがわからない」と何度も言うのです。途中で投げ出してもいいよ、と言ったのですが、本人は「出るからには最後までやり遂げる」と、最後のホールまで終えることを目標にしていました。

沼田: こういうときにはこういう声をかける、というのは決めているのですか?

みゆきさん: 状況によって違いますね。優しくおだてるときもあれば、叱咤激励をするときもあります。甘えてくるようなときは怒ることも。欧州ジュニアのときは、とにかく自信を取り戻してやりたいと、あらゆる手を使いました。

沼田:どんなにつらくても最後までやり遂げるというのはすごいこと。母親というのは子どもを守りたいものですから、プレッシャーに晒されるのはかわいそうと思ってしまう人も多いのです。そんななか、どんな思いで勝ち負けにこだわっていらっしゃるのでしょうか?

みゆきさん: 親としては、出るからには勝ってもらいたいと思っています。出場者86名のうち、全員が優勝しようと思って出てきているはず。そんななかで勝つには、意欲がないと無理なのです。弥勒には、最後まで食らいついた自分を誇ってほしいと思っています。一方で、「ゴルフはいつでもやめられるのだから」とは言っています。今回、弥勒は初日から、「日本に帰りたくない」とこぼしていました。この度の試合は、人生の山を登るうえでのほんの小さなことにすぎないとわかってほしかったですね。

 

 

フィギュアスケーターからピアニストに転向 ー 子どもと一緒にそろばんに励む

カリフォルニア州サンディエゴ「ポテトチップロック」

 

沼田: 世界ジュニア選手権が終わった後は、サンディエゴで山登りを楽しんだとか。『ポテトチップロック』の写真を拝見しました。

みゆきさん: 山登りをしたのは二十数年ぶりです。雄大な自然に圧倒されました。日本の山というのはこだまが返ってくると思うのですが、今回登った山は、いくら叫んでもこだまが返ってこないのです。これには弥勒もびっくりしていましたね。汗だくになりながら、弥勒といろんな話をしました。優勝できないから失敗してしまったのではなく、これからさらにステップアップするにはどうしたらいいのかと建設的な方向に持っていきました。世界ジュニアはきっと、天狗になっていた私たちに神様から与えられたお告げ。目指していても達成できないこともある。人生のなかの一つの試練だねと話したのです。

沼田: みゆきさんは、元フィギュアスケート選手でありながら音楽大学を出たピアニストでもあります。プロフィールを詳しく教えてください。

みゆきさん: 小学校・中学校のときはフィギュアスケートに打ち込みました。中学校1年生のときに全国大会で11位だったのですが、それがとてもショックで。1桁台ならばフィギュアを続けていたと思います。将来のことを考えたときに、「おばあちゃんになっても楽しめるものを」と思い、ピアニストの道を選んだのです。武蔵野音楽大学でピアノを専攻し、大学院では教育学を学びました。イギリスにも留学し、25歳ぐらいまでコンクールに出るために、練習漬けの毎日でしたね。全日本ソリストコンテストを受賞し、リサイタルを開いたこともあります。

沼田 :ゴルフ経験はあったのですか?

みゆきさん: まったくなかったです。テレビで見たこともありませんでした。そもそもピアニストでしたから、スカートしか履かなかったですし日焼けなんてご法度だったのです。弥勒がゴルフを始めると決まったときに、「私に寄りかかるようなゴルフのさせ方はしないでね」と夫に言ったほどでした。

沼田 そろばんも有段者だそうですね。

みゆきさん:  そろばんは6歳の頃からやっていて、子どもの頃に2級を取っていたのです。子どもたちがそろばんに通うことになり、子どもたちの手前、恥ずかしくないようにと再び始めました。最初は指が動かなかったのですが、朝4時に起きて頑張り、段を取りました。

沼田 :最初から諦めずに、努力されるのがみゆきさんのすごいところだと思います。

みゆきさん:子どもたちに口だけ「やりなさい」と言っている自分はどうなのかなと思って。でも私がそろばんの勉強を始めると、子どもたちも自然に起きて一緒にやるようになりました。それで子どもの成績が上がったかというと、それは子どものペースなのですが、そろばんの良さを改めて理解することができたのです。そしてそろばんという共通の話題ができました。子どもにとっては、親と一緒に何かをやることが嬉しいみたいなのです。そして私自身も、嬉しそうな彼らに励まされました。

 

やめたいときはやめていいけれど、簡単には諦めてほしくない

沼田 :長男の桃太郎くん、長女の弥勒さん、次男の文殊くんと三人きょうだい。よく、誰かが何かに秀でていると、他の子が拗ねてしまったりコンプレックスを持ったりということが言われるのですが、須藤家ではどうでしょうか?

みゆきさん:最初はありましたね。「なんで弥勒ばっかり」と言うことも。そんなとき私が子どもに伝えたのは、「花が咲く時期というのはその子によって違う」ということ。確かに今、弥勒は大きな花を咲かせているのでしょう。一方で、桃太郎や文殊はまだ花を咲かせていないかもしれないけれど、それはまだその時期じゃないからでは、と言ったのです。そういうときは、根を大きくしたり、茎を太くしたりして、いつ花を咲かせてもいいように準備をすれば、とアドバイスしました。たとえ咲かせる花がかすみ草のような小さな花だとしても、その根と茎はとても大事ですよね。

沼田 :YouTubeなんかを見ると、桃太郎くんは、ときに弥勒さんのインタビュアーとして活躍しているときもありますね。レポーターの才能もありそうです。

みゆきさん: 自然にそうなったのです。桃太郎も弥勒も、実は落語が上手。文殊もそうですが、日本の古典落語に興味があるらしく、よく3人で真似していますね。ケンカするときもあるけれど、きょうだい仲良く助け合ってくれればいいなと思っています。

沼田 : 3人のお子さん、どのように育っていってほしいですか?

みゆきさん:  ゴルフに関しては、弥勒がやめたいと思ったときにやめていいのではと思っています。「ゴルフしかないのだから、絶対ゴルフをやりなさい」というような考え方は嫌なのです。そろばんに関しても、自分自身が勉強になったから子どもたちにやらせただけで、子どもが嫌だとなったら続けなくてもいい。ただし、単に「嫌だからやめればいいよ」と言うのではなく、どうしたら子どもに物事を好きになってもらえるのかを考えるようにしています。いい部分と悪い部分を挙げて比べさせたりもしますね。子どもたちには、自分が好きな道を好きなように頑張ってもらえればと思っています。

沼田 : そのバランスが絶妙なのだと思います。課題にぶつかったときに、乗り越えるために努力することの楽しさ、大切さも味わってほしいですよね。

みゆきさん: 「もうだめだ」と諦めてほしくないですね。

沼田: 弥勒さんは現在、ご自宅にいるときとゴルフ場近くに滞在しているときと、二拠点で生活をされています。生活のサポートをどのようにされていますか?

みゆきさん: 自分に何ができるかと考えたとき、たどり着いたのが食事のサポートでした。実は料理はそれほど得意ではなく、ピアノに打ち込んでいたこともあり、結婚当初は包丁を握ったことがなかったのです。「手料理が食べたくて結婚したわけじゃないよ」と夫に慰められるほどでした。そこで料理の勉強を始めて、スポーツフードマイスターと茶道(表千家)教授師範、花道(草月流)師範、書道教授師範の資格を取りました。弥勒には栄養バランスがとれた食事を摂ってもらおうと日々工夫をしています。自宅にいないときは、食事をタッパーに詰め、冷凍したものを持っていってもらっています。

沼田: それはすごいですね。弥勒さんには将来どのような選手になってほしいと思いますか?

みゆきさん: 弥勒の夢は「伝説のゴルファーになる」ということ。具体的な目標はまだこれからですが、優勝しないと評価されない厳しい世界です。大会に出場するからには優勝してほしいですね。そして弥勒には、息の長い選手になってほしいと思っています。息の長い選手とは、故障をしないということ。私も選手として故障の経験があります。自分の思い通りにプレーするためにも、故障は避けてほしい。私は食事のサポートをし、夫は弥勒にスポーツマッサージをして支えています。

沼田: ぜひ、みんなに愛される伝説のゴルファーになってほしいですね。本日はありがとうございました。

 

▼プロフィール

須藤弥勒(すどう・みろく)

2011年8月6日、群馬県生まれ。2歳からゴルフを始め、2017年、18年に最年少で世界ジュニアゴルフ連覇。2019年にマレーシア世界選手権、2021年にキッズ世界選手権を制する。2022年に史上初のジュニア四大メジャーグランドスラムを達成。家族は父の憲一さん、元ピアニスト・フィギュアスケート選手の母・みゆきさん、兄・桃太郎くん、弟・文殊くん。

 

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